南国Breath

南山国際の閉校に関して

新しい学校の創設を

 前回のブログ「では、何をしたらいいのか。」で新学校の創設を求めた。では、我々帰国生徒関係者や学校法人関係者にどのようなメリット、デメリットがあるのか。もう少し考えてみたい。

 海外子女教育振興財団によると文部科学省がまとめた2014年度の「学校基本調査」によると全国で2014年度に帰国し、2015年5月現在、国内の小学校、中学校、高等学校、中等教育学校に在籍している生徒数は11,708人で3年連続で増加している。また、愛知県は製造業の企業が海外に進出していることも多いため、東京、神奈川に次いで3番目に多くなっている。東京や神奈川は人口も多く、帰国生徒も多いのはわかる。しかし、愛知は神奈川とあまり変わらないくらい、大阪の倍以上の帰国生徒数である。南山国際はこのような状況の中で、帰国してもすぐに入ることができる学校として機能してきた。ただ2013年度からは、編入試が年間3回となってしまったのですぐにとはいかなくなってしまったが。ほかの学校でも受け入れはあるが、欠員がある場合しか行わなかったり、受け入れ人数が極端に少ない、試験のレベルが高いなどの障壁もある。当然以前の南山国際のような受け入れ態勢の学校ができれば、海外に家族と一緒に駐在する者にとって、帰国後の生活により安心感が得られる。また、大学を併設した学校法人であれば、その後の大学進学にも安心感が持てるのも1つのメリットである。

 では、デメリットとして考えられるものは、特にない。現在、小学校5年生の帰国児童をもっている保護者は、南山国際に入れようと考えていたのにどうしてくれるんだと思っているだろう。そんな親にとって新しい学校ができることはメリットはあるが、デメリットは考えられない。

 新しい学校をつくる学校法人にメリットはあるだろうか。まず第1に英語のできる学生の確保である。南山国際の入試広報部長のT先生にどれくらい英語のできる生徒がいるか尋ねたところ、高校3年生のうち英検1級が約1割、準1級以上になると3分の1以上になると言っておられました。この成績は一般的な大学の外国語学部の水準をはるかに超えていると思う。大学の付属校のようにすることでこれらの英語のできる学生が多く確保できるこは、大きなメリットとなる。

 また、デメリットは南山国際と同じような規模で同じような教育環境をつくると赤字になることである。理事によると南山国際は年間数億の赤字を出していた。しかし、その多くは、建物などの減価償却費であり、それらを除いた経常的な赤字は5000万程度だそうである。大きな大学であれば、英語のできる学生が確保できることに対する対価としては、非常に小さいものではないだろうか。

 前述のT先生に南山国際がなくなったらどうしたらいいのでしょうかと聞いてみた。彼も私同様、ほかの学校法人が帰国生徒の受け皿となってくれる学校をこの地方に作ってくれることが最善の策じゃないでしょうかと言っていた。

 どうか、どこかの学校法人が新しい学校を愛知県に作ってはもらえないかなと思っている。

では、何をしたらいいのか。

 では、ここで我々、帰国生徒関係者は何をすべきなのであろうか。本来なら今までどおり、南山国際を継続してほしい。それが、大学にも利益をもたらすことは前のブログで書いた。昨年度、南山国際の存続を求める署名活動が行われ、理事会へと提出された。それに対して理事会は何の反応もなかった。説明会などでも閉校の決定は変えるつもりのないこともさかんに言及していた。よほど大学への影響などから学園理事会が考え直さない限り、閉校の撤回はないものだと考えられる。

 では、今後どのようなことを考えていかないといけないか。まずは、帰国生徒の受け皿の問題である。南山国際がなくなっても帰国生徒を受け入れてくれる学校はある。しかし、編入の時期や人数が限られていたり、帰国生徒が少なく特別な配慮がされない場合もある。南山国際のようにある意味理想的な受け入れ校がほしい。

 そのため、南山学園にかわる新しい学校法人が帰国生を受け入れる専門の学校を設置してくれないかと思う。条件としてはつぎのような点が考えられる。

  1. ある程度の規模の学校法人であること
  2. 進学先としての大学を持つこと

 1.は、現在の南山国際と同じような学校運営を行えば赤字になることは明らかなので当然、その赤字を補てんできる学校法人である必要がある。

 2.は、英語ができる生徒の進学先として大学があれば、生徒も安心して編入することができる。

 また、このまま南山国際が閉校すれば、そこでの帰国子女教育のノウハウが失われてしまう。在職している先生方もほかの学校へ離散してしまう。虫のいい話かもしれないが、新しい学校ができ、そちらに南山国際の先生方が移動すれば、今まで通りの南山国際が続けられる。

 場所は、現在は浄水駅などからスクールバスで通っている生徒が多いが、駅の近くで開校すれば年間10万円のスクールバス代がかからない。学校にとってもバスの維持費が必要でなくなる。

 以上のことから我々帰国生徒関係者は、新しい学校の設立を求めたい。運営は赤字となるだろうが、その見返りとなることも多いことは見込まれる。

 

南山国際の閉校にともなう南山大学への影響

 南山大学は、どのような影響をうけるのか。現在、南山国際からは毎年50~60名程度の卒業生が南山大学に進学している。その多くが指定校推薦により進学している。これらが、閉校により南山大学にどのような影響を与えるか考えていきたい。

 よく「南山大学ってどこの大学」って東海地方以外ではいわれるらしい。「めいだい」も東海地方では名古屋大学のことだが、関東では明治大学である。東海地方では名古屋をはじめ地元の大学への進学率が高い。東海地方の大学で一番頂点にあるのが名古屋大学である。東海地方に住んでいる我々にとって南山大学は名大には行けないけどそこそこできる子、あるいは名大を受けるけど滑り止めに南山を受ける子というイメージがある。そのため南山大学は、愛知県の私立文系の中では一番上というところであろうか。理工学部もあるが、もともとこれは経営学部の情報管理学科だったので、あまり理系というイメージはない。南山大学の中では、外国語学部英米学科のレベルが高い。ここが南山大学の看板になっていることは否めない。

 南山国際から南山の英米学科には毎年10名くらい進学している。その中には、TOEFLTOEICの高得点者や英検1級を取得した生徒もいる。ほかの学部学科にかんしても英語のできる学生が南山国際から進学している。南山大学の英語のレベルを上げることに貢献しているのは明らかである。

 この南山国際の閉校にともない英語のできる生徒が南山大学に確実に進学するルートがなくなる。今まで南山国際にはいっていた英語のできる帰国生徒は、ほかの高校から一般入試でさまざまな大学へと進学することになるだろう。また、南山大学は2017年度から国際教養学部を新設する。この学部でも英語教育が重視されており、英語のできる学生が期待されている。

 今後、学生の質の低下や英語のできる学生の確保を考えれば、南山国際の閉校は南山大学にとっても大きな損失になることは明らかである。南山国際を付属校化し、確実に英語のできる学生を確保すべきではないだろうか。

南山国際の累積赤字について

 南山国際の閉校の一番大きな要因は、その累積赤字である。学園の説明によると約75億の累積赤字が存在している。普通の学校法人であればこれだけの負債を抱えれば、とうに閉校していてもおかしくない。しかしながら、南山学園は現在では幼稚園から大学院までを抱える大規模な学校法人である。今まで法人全体でこの赤字は事実上補てんしてきているので、やってこられたと思われる。また、この累積赤字の多くが減価償却費である。減価償却費は将来の建物の建て替えなどのために積み立てられるもので、これを除けば、毎年の赤字額は1億円未満となる。南山国際の設立当初(1993年)より赤字は続いているが、学園もそれが法人全体で吸収できることを理解していたはずである。そのことは、今までの理事が、「赤字ではあるが、そのことを理由に南山国際をつぶすことはない。」と言及していたことからもうかがえる。

 ではなぜこの期になって南山学園は閉校を決定したのだろうか。それは、学園が財政的な危機感を持ったからではないだろうか。学園は、今回の閉校には関係がないと説明しているが、デリバティブによる損失が総額で229億円でてそれを返済した。これは財政的にも大きな損失である。また南山大学は瀬戸キャンパスを閉鎖し理工学部総合政策学部を名古屋キャンパスに移転する。瀬戸キャンパスは2000年4月に開設された。16年間しか瀬戸キャンパスは使われていない。当然、16年間に積み立てられた減価償却分では名古屋キャンパスでの建設費用としては十分でないことが考えられる。このようなことが今後とも起こる可能性が否定できないため、恒常的な赤字を続ける南山国際を閉校することを決定したのではないだろうか。

 ここ数年、大学の都市回帰が行われてきている。東京だけでなく、愛知県でもいくつかの大学で名古屋市内キャンパスへの移転が行われている。少子化に伴い、受験生も年々減少しているにも関わらず、大学の定員数は変わっていない。そのため、私立大学の半数以上が定員割れをおこしている。受験生も有名大学、いわゆる偏差値の高い大学を目指すため、受験生数が減れば、そういった大学から定員が埋まっていき、その下の大学は、定員を埋めるためによりレベルの低い学生を入れざるを得なくなる。今までと同じやそれ以上のレベルの学生を確保するためには、より魅力的な大学であることが必要となり、大学以外に何もない地方よりもアクセス便利な都心への回帰が行われるようになった。南山大学も同様な判断をしたのであろう。

 つぎに、南山国際の閉校が大学にあたえる影響について考えてみたい。

南山国際高等・中学校の将来計画について

 昨年10月24日土曜日の午前中、南山学園理事会から保護者に対して閉校に関して説明会が行われた。10月21日(水)に「南山国際高校・中学校の将来構想についての説明会開催について(ご案内)」という文書が保護者向けに配られ、何らかの重大な発表が24日になされることはわかっていたが、24日当日の中日新聞の朝刊に閉校の件が報じられ、説明会以前に多くの保護者にはわかっていた。誰が中日新聞に情報を流したのかはわからない、しかし、学園関係者の誰かが事前に新聞社へと流していたのは明らかである。

 10月24日の午後には記者会見が開かれ、この時点で閉校の情報は完全にオープンなものとなった。保護者会、記者会見で配布された資料と同じものが南山学園のホームページにも掲載されている。

南山国際高等学校・中学校の将来計画について』←ここをクリックする。

 この資料によると2018年度から中学入試の募集を停止し、それ以後は存在する学年の編入学のみで、中学が2019年度末、高等学校が2022年度末をもって閉校することがわかる。そして、【趣旨】の中で南山学園が「国際性の涵養」の実現に向けた教育を実践してきたことを示している。また、1970年代の社会的要請にこたえる形で「帰国子女学級」、「国際部」、「国際高等学校・中学校」を設置してきたことも述べている。しかしながら現在までの累積赤字が約75億となり、一学校法人がこれからも継続的に運営するのは困難であるとしている。また、国や県や市などからの補助金が減らされてきたことも挙げられている。そして企業の寄付も十分に得られないことをその理由に挙げている。

 最後のほうで「日本の国際化の進展により、海外・帰国児童・生徒は『特別な存在』ではなくなり、その教育もまた特別なものとして位置づけられなくなってきている。」(2012年3月、海外子女教育振興財団発行の『帰国児童・生徒教育に関する総合的な調査研究』今後の課題より抜粋)と海外子女教育振興財団の報告書から引用を行っている。したがって、特別な帰国子女教育は必要ないという旨の説明に用いている。しかし、この引用元で書かれている趣旨は、特別にとらえられなくなったので、もっと帰国子女教育のすそ野を広げなくてはいけないという真逆のものである。その後、この引用はかっこと引用元の記載が削除されてホームページに掲載されている。

 もう少しで、閉校が発表されてから1年になる。南山国際の閉校問題についてもう少し考えていきたい。

南山国際の進路状況

 今回は、南山国際の卒業生の進路について考えてみたい。大学の合格や進路状況は学校案内のパンフレットに乗っている。このパンフレットはpdfファイルでホームページから見ることもできる。それによると毎年、南山大学に50名以上の合格者が出ている。昨年度の卒業生は114名なので半分近い人数の合格者を出している。これは60名以上の学園内の指定校推薦があるためで、中には希望者がいないために推薦しない学科もあるそうだ。しかし、英米学科などは人気が高いため、校内での成績もかなり高くないと選ばれないそうだ。

 次に合格者が多いのが東京の上智大学である。上智大学は帰国生徒の受け入れ大学として有名である。また国際教養学部など英語による教育が行われているのもその特色である。上智大学の指定校推薦も5名ほどあるそうだが、最近はカトリック高等学校対象の推薦試験が行われており、その試験で合格する生徒も多いそうだ。

 関東のほうだと早稲田や慶應にも毎年5,6名の合格者を出している。関西だと立命館同志社などに合格者を出している。

 国公立はそれほど多くないが、毎年名大をはじめ愛知県内の国公立大に合格者をだしている。また昨年度は浪人であるが2名東大にも合格者を出している。

 昨年度は、海外に進学したのは1名だが、ここ数年は5,6名の進学者がいる。海外の大学に進学することは普通の日本の高校からはかなり難しいが、南山国際ではそれほど高い壁ではない。

 南山国際は補習や校内模試もやらない学校であるが、その進学実績は卒業生が114名の学校としては、かなりのものではないだろうか。

 先日、日本テレビ系列で放送された全国高校生クイズ選手権に愛知県代表として南山国際高校の生徒が出場した。県代表として県予選を1番で通過したからである。選抜方法も完全な知識だけを問うものでなかったようであるが、ほかの愛知県内の公立、私立の進学校を抑えての1位である。なかなかのものでないかと思う。

南山国際の教育

 南山学園のモットーは「人間の尊厳のために」である。このことは、どんな人にも尊ばれる価値があり、それを厳格に認め、それを守るということを示している。南山国際では、いろいろな国の生活を体験してきた生徒がいる。ハンドブックには「南山国際高等学校・中学校の生徒である皆さんは、色々な国の生活を体験してきている。いろいろな国、民族、文化、思想間の違いを理解し認め合い、真の世界平和を実現できるよう、人間の尊厳のために努力をしよう。」と書かれている。

 南山国際では帰国生徒だけでなく外国籍生徒も多くいる。外国籍生徒の場合、日本の学校ではその見た目からいじめや仲間外れの対象になることも多い。しかし、南山国際では海外の多国籍文化を体験してきた生徒も多く、普通の日本人生徒と同じように接している。

 また、ハンドブックには次のようなことが書かれている。「南山国際高等学校・中学校は、自由であることを大切にする。しかしこのことは同時に、生徒の皆さんに、自分で考え判断し、自分の行為に責任を持つことが強く求められる。南山国際高等学校・中学校は、いうまでもなく、海外帰国生徒と外国人生徒だけの学校である。だからこそ、さまざまな価値観や思いを理解し、協力しあい、ともにこの社会のルールを守ることが一層求められる。それを実現することは、南山国際高等学校・中学校の教育の目標である。」

 南山国際は、とても自由な学校である。制服もないまた校則もほとんどない。校則は、次の10個だけである。

  1. 考査等における不正行為
  2. 金品を盗むこと
  3. 暴力をふるったり、脅迫したりすること
  4. 学校の施設・設備を故意に破壊すること
  5. タバコ・酒・薬物などをたしなむこと
  6. 授業を妨害すること。また他の人に対して極端な無礼をはたらいたり、迷惑をかけること
  7. はさみ、カッターなどの刃物や危険物を持ち込むこと
  8. ガムを持ち込むこと
  9. バイクを許可なく自分で運転して通学すること。自動車を自分で運転して通学すること
  10. 就業時間内(9:00~15:30)に無許可で郊外へ出ること

これだけである。

  8のガム以外は一般的に禁止されて当たりまえのことである。髪の毛は染めたり、パーマをかけてもよいし、ピアスも化粧も禁止されていない。海外の学校では、高校生が普通に行っていることである。日本に帰ってきても、同じような学校生活が送られる。

 容姿を自由にできることで学校が荒れるとかそういう気配は全くない。入試担当の先生の説明によると授業などもやりやすいそうである。また、校内ですれ違った生徒の多くが、あかるく挨拶をしてくれるのも印象的だ。編入希望の生徒は、事前に学校訪問をしなくてはならないが、多くの生徒が学校訪問の結果、編入を希望するそうだ。

 このような学校は全国的に見ても非常に珍しく守るべき学校であると思う。